5月12日の、書評:伊坂幸太郎「ラッシュライフ」
今回は「ラッシュライフ」、お馴染み伊坂幸太郎さんの作品です。そう言えば、最近この書評でやけに伊坂幸太郎が取り上げられてるなぁ、なんて思った方いらっしゃいませんか? 多分、気のせいじゃないです(笑)
今佐伯の中では「とりあえずその作家の作品を沢山読んで傾向や技術を掴もうキャンペーン(長いよ)」中でして、現在伊坂幸太郎さんがその「とりあえず(以下略)」中です。なので、もうしばらくお付き合い下さい。
では本題に入りましょう。ラッシュライフ。ラッシュ、とカタカナ表記で表すとどの意味を持つのか判断に困ります。rush,rash,lush,lashと、発音こそ違えど4つの意味が存在するからです。で、この物語はそんな4つの「ラッシュライフ」が交錯するお話です。
泥棒を生業とする男、不倫相手の妻を殺して再婚を企む女、犬を拾う失業中の男、新興宗教の教祖に惹かれる青年。この4つが主な物語の軸となっていて(本当はもう一つ、莫大な富を持つ画商と女性画家の視点もあるのですが、割愛)、時にすれ違い、時に重なり合ったりしながら進んでいきます。
実はこの4つの視点にはあるトリックがあるのですが、そんなに珍しい手法ではないのでそれを見破る人は結構多いのではないでしょうか。そして、このお話の見所はそこではありません。
ずばり、見所は「2回目」。
初見では、それぞれの軸でのお話が個別に繰り広げられていく、そういう印象を受けるはずです。しかし、2回目以降は物語のもっと全体としての大きな流れが見えてくるはずです。複数の視点ではなくて、一つの視点として。その絡み方が非常に複雑で精巧に出来ています。トリックには驚かなかったのですが、読み終えた後に作者の伊坂さんがプロットを練っている姿を想像して驚きました。これ、本当に頭の中で全部考えたんですか? と。
人生をオペラに喩える、というのは有名な話です。人それぞれには初めから役が決まっていて、その人の人生は物語の中に組み込まれている、という奴です。視点の主から言わせれば自分こそが主人公だと思っているはずです。しかしながら、他の人から見ればその人は自分の人生に影響を与える脇役でしかないわけです。ではその人が主人公か、と言われればそうでもなく。物語はたくさんの人生を複雑に絡ませながら、もっと大きな一つの流れとなっていくのです。
なんとなく、そんなことを思いました。
救いのある話、救いのない話、ユーモアあふれる話、悲しい話、このラッシュライフの中にはいろいろな話がありますが、伊坂さんの好きな言葉を借りるとすれば、彼らの運命は全て「神様のレシピ」によって決まっているのでしょう。その神様とは誰なのか。さて、それは作者のみが知っているのでしょう。
というわけで、巧妙に物語が絡み合うトリックは斬新ではありませんが必見です。タネを知ってからの2回目を読むのが好きな人、是非手に取ってみて下さい。
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- [2008/05/12 23:53]
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5月9日の、書評:荻原浩「噂」
みなさま、今晩は。佐伯@反省中です。暫くはこう名乗ることにします。反省っ。
さてさて、今回は荻原浩さんの「噂」。どうでもいい話ですが、佐伯はどうもこの文字を見ると「ハギワラ? それともオギワラ?」となってしまいます。いえ、本当にどうでもいい話です。荻原さんといえば本屋大賞で二位を獲得した「明日の記憶」などなど、数々の話題作を発表して、今や人気作家の一人です。
さてあらすじ。香水の新ブランドを売り出すために渋谷でモニターの女子高生がスカウトされた。「レインマンが出没して、女の子の足首を切っちゃうんだ。でもね、ミリエルのローズを付けてると狙われないんだって」。そんな口コミを利用し、噂を広めるのが狙いであった。その噂は都市伝説化し、香水は大ヒットするが、やがて噂は現実となり、足首のない遺体が発見された……。
と、裏表紙丸写しですが。ミステリーです。その捜査に当たり、このお話でスポットが当てられるのが、所轄の刑事である小暮と、本庁の名島警部補です。小暮はかつて本庁で活躍していた時期もあったそうなのですが、妻に先立たれ男手一人で娘を育てるために所轄へ。一方名島警部補、ぱっと見新卒のOL風な風貌をしておきながら、実は30過ぎで一児の母。しかし小暮同様、夫には先立たれているという境遇。
えー、見所は一つです。あ、いえ、別に一つしかないという意味ではありません。軽妙な語り口も、伏線の張り方も、驚愕のラストも素晴らしい出来だと思います。しかし、それらを差し置いて、なお余りある魅力を振りまくのは、
名島警部補のナチュラルな可愛さです。
小説を読みながら、久しぶりに「うわぁ、可愛い」と独り言を漏らしてしまいました。勿論ストーリーは事件が本筋なのでそういう描写が多いわけではないんですけど、例えば小暮が名島親子と会うシーン、小暮が名島(息子)に「だいじょうぶ、お母さんをとったりはしないから」と言うと名島さんが微妙な笑顔になるところとか。
なんて言うんでしょう、近年多い「萌えるヒロイン」とは全く違う、けれどもこのそこはかとなく可愛い感じ。
……ああ、これをキャラクター造形って言うんですね。
そうです、とにかく作中に出てくる人物のキャラクター造形が非常に上手いです。そのおかげで物語が爽やかでスピーディーに展開しています。そんな魅力的な登場人物達のやりとりを楽しみながら謎を解くのもまた一興かと。
勿論ミステリーとしても優れた出来です。特に最後の1行。度肝を抜かれること間違いないでしょう。なので、うっかりその最後の1行を読んでしまわないように、気をつけながら読み進めてみて下さい。
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- [2008/05/09 23:53]
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4月26日の、書評:有川浩「レインツリーの国」
昨日買ったギター、ガンガン弾きまくっています。弾きまくっていますが、さすがに何時間も弾いてると指がジンジンと痛くなってきたので、休憩がてら例の如く書評でも。
今回は「レインツリーの国」。作者は既に紹介したことのある有川浩さんです。なんでも彼女の代表作である「図書館戦争」シリーズの作中に出した架空の本を実際に一つの作品として書いた物らしいです。
話の内容はこう。主人公の伸行はふとしたきっかけで、かつて学生時代に熱中したライトノベルの驚くべき結末、それを他の人はどう捉えたのだろうかということが気になりだす。インターネットで感想を探した伸行は、「レインツリーの国」というサイトに辿り着く。当時自分が抱いた感想とは微妙に違う内容に伸之は興味を引かれ、そのサイトの管理人の「ひとみ」に勇気を出してメールをしてみることにする。メールのやりとりを繰り返していく内にうち解けた二人。ある時、伸行が「実際に会ってみないか」と提案する。が、ひとみからはなかなか良い返事が返ってこない。説得していく内になんとか会うことに成功した二人だが、実は彼女には秘密があって……。
と、その秘密という物ですが、うーん、本の半分より手前くらいで判明するので言っても良いと思うのですが、そういうのを嫌う方もいらっしゃると思いますので、念のためココで大きく改行しておきます。ネタバレを避けたい方は、レッツ・ブラウザバック。
はい、彼女の抱えていた秘密とは「難聴」ということです。彼女の場合は事故が原因のため、話すことはでき、また低音域ならば補聴器の力+口の動き等を観察することでなんとか会話を交わすことができる、というもの。できれば難聴であるということを隠しておきたかったひとみ。多少不自然な言動をしつつもなんとか誤魔化してきたのですが、その日の最後の最後で伸行にバレてしまいます。
要するにこの本のテーマは「耳に障害を持った人を主人公とした恋愛小説」です。
えーっと、実は佐伯の父も以前耳の病気で手術をしたことがあります。手術は一応成功したらしく(小さい頃なのであまり覚えていませんが)日常生活に大きな問題はないのですが、どうも小さい音は聞こえづらいらしく、佐伯が実家に電話をしても聞き返される事が多いですし、家のテレビのボリュームは常に若干高めだったりします。
……と、父親の話をしたいのではありません。本の話です、本の話。まあ要するに、父のこともあって佐伯にとってちょっと興味深いお話だったのです。まあこういうお話はドラマの「愛してると言ってくれ(だったかな?)」、「オレンジデイズ」等々、別段珍しい話ではありませんが、それでも。
ちなみに佐伯が抱いた感想という物は「人は決定的には分かり合えない」ということ。いくら想像することができたとしても、それはあくまで推測でしか無く、事実とは違う訳です。ひとみの抱く不安や悩みは伸行に全ては理解できませんし、ひとみのことが好きだ、という伸行の気持ちもひとみは完全には信用することができません。何も彼らに限った話ではありません、今これをご覧になっている貴方と、貴方の恋人も完全には分かり合えていないんだと思います。
ハッキリ言って面倒くさい。いつも心のどこかで、自分の言動が相手のことを傷つけるかも知れない、なんて怯え続けるのはこの上なく面倒くさいです。それでも、人はどうしてか他人との触れ合いを求めるんですよね。不思議なもんだ。
「レインツリーの国」の二人も、傷つけ、傷つき合いながらも、互いに距離を縮めていこうとしていきます。実際作中で伸行も「面倒くさい子」と言っているにも関わらず。きっと多くの恋愛小説は、こうやって「面倒くさい、はずなのに」を繰り返しているのでしょう。この場合、例えば障害の有無、身分の違い、年齢の差、などはそれを彩る修飾語でしかないような、そんな気がします。
と、色々関係のないことを書き連ねましたが、内容自体はいつもの有川浩節炸裂でベタです。っていうか、上のあらすじを読めば8割方くらいの内容は予想できるような感じです。なので前回も書きましたが、小説に驚くべきトリックとか、ラストの大どんでん返しとかを期待している人にはあまりお勧めしません。そうでない方には、大いにお薦めできる一作です。既に読んでいる方は、「図書館内乱」内でどのような使われ方をしているのか、そちらの方も読んでみては如何でしょうか。
「……なるほどねぇ。そういうわけだったんですか」
「ん? 何が?」
「なんで最近書評が多いのかなあと思ってたんですよ」
「だからそれはバイトが暇で沢山本を読んでるから、って説明したじゃない」
「はいはい、隠さなくても良いんですよ。今日紹介した本みたいに、『この感想を見た可愛い子がメールしてきてくれないかなー』なんて思ってるんですよね」
「なんですとぉ!?」
「もー、動機が不純ー。管理人さんのすけべー」
「誤解を生むような発言をするなっ!!」
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- [2008/04/26 21:06]
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4月23日の、書評:川端裕人「夏のロケット」
今月になって3度目、佐伯によるインチキ書評です。うん、ちょっと機会がありまして色々と本を読んだのです。今回お話しするのは川端裕人の「夏のロケット」。少々季節感無視ですが、まあその辺は突っ込まないでおいて下さい。
一言で表すならば、ロケッティア(ロケット狂)達の青春物語です。
高校時代、ロケットに、宇宙に憧れて天文部のロケット班にて自作ロケットの作成に明け暮れていた主人公達5人。高校を卒業し、それぞれの進路に進みながらも宇宙への憧れは捨てきれずに、各々宇宙やロケットに関わりのある職場へ進んでいった。新聞社の科学部宇宙担当記者になった高野はある日、手助けとしてかり出された過激派のミサイル爆発事件の取材で、現場に残ったミサイルの残骸の中に、自分たちが高校時代に独自に設計したパーツを発見する。この事件に昔の仲間が関わっているのではないかと疑う高野は、調査をしていくうちにロケット班の仲間達が再び集まってロケットを飛ばそうとしていることを知り、事件との関わりを疑いながらも彼らの仲間に加わりロケット作成に携わっていく、といったもの。
こんな話を書かれた日には「僕に勇気をください」(本家サイトを参照)を書いた自分としては興奮せずにはいられません! ロケット作成に幾多の問題が立ちはだかったり、高性能の素材を探しに刀鍛冶の所へ出向いたり、ロシアへ飛んで本物の宇宙服を手に入れたりと、ワクワクさせてくれるポイントは多いです。
彼らは既にいい年した大人で、ただ純粋に夢のためにロケットを飛ばしているわけではありません。かたや事業を成功させようと、かたや自分の実力を認めさせようと。そういった各々の思惑は確かにあるのですが、でもロケットなのです。きっとみんなロケットが大好きで、試行錯誤の上に試作機の打ち上げが成功した時には、みんなで飲めない酒を飲んで大はしゃぎしています。きっと、佐伯が「僕に勇気をください」で書きたかったの内の一部分は、こういったことなんだろうなと思います。
勿論川端氏はプロの作家さんですから、佐伯がなんとか苦心して付け加えた期待に対しての極めて怪しいリアリティーとは比べものにならないくらい、入念な下調べの後に独自の理論を組み立ててらっしゃいます。そういうメカニックな部分も工学部のハートをくすぐるくすぐる。あたかも本当に自分たちの手で宇宙へ飛び立つロケットが作れるのではないかと思わせるほどです。
きっと大人になってもみんな夢は忘れていないんですね。ただ、思い出さなくなっただけで。思い続けていれば夢は叶う、なんて事は言いません。けれど主人公が途中で、もしこの計画に本気で取り組んでみんなで宇宙を目指したとしたら、それはロケット打ち上げ成功如何に関わらずなんと幸せで充実した日々になるだろう、と思い描くシーンがあります。きっとみんな夢は捨てていない。そんなことを思わせてくれる作品でした。
ちなみにこの作品のプロローグは、場所も時代も何も分からない、けれどロケットが火星に着陸する瞬間のシーンで始まります。もしかしたらこれが彼らロケッティアが飛ばしたロケットだったとしたら、なんて想像しながら読んでみるのも楽しいのではないかと思います。
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- [2008/04/23 17:08]
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4月20日の、書評:有川浩「塩の街」
二日続けての本のレビューですが、今日は有川浩の「塩の街」。彼女(名前だけ見るとヒロシって男の名前みたいですけど女性の方です。ちなみに読み方はヒロ)がライトノベルの王手電撃文庫の新人賞大賞をとって華々しくデビューした作品です。後に文庫版から大幅に加筆修正を加えたハードカバーの単行本が新たにメディアワークス社から販売されました。今回佐伯が読んだのはその単行本版。なので文庫版を読まれた方は「設定が違う!」と思われる方もいらっしゃるかも知れませんが、その辺はご理解下さい。
さて話のあらすじ。舞台は日本。塩化ナトリウムが主成分の巨大な塩の結晶が地球の各地に衝突して以来、世界では「塩害」と呼ばれる現象に悩まされています。それは、感染した者の体内の成分が徐々に変化していき、最終的には人の形をした塩の彫刻になってしまうというもの。交通機関や情報網が麻痺し、人々を守るために在った法律も意味を成さなくなった世界。そんな仲で共に暮らす、謎の多い男秋庭と、彼に助けられて以来居候している女子高生真奈の二人を取り巻くお話。
後に彼女が書いた「空の中」、「海の底」と並び自衛隊三部作と称され、その「陸」にあたる作品です。なので話には陸上自衛隊が関わってきます。彼女の作品は以前「図書館戦争」を読んでから結構好きで、この作品もそういった系列のお話。雰囲気的には、もうちょっとシリアスな感じです。
さて、彼女の作品の魅力というのは「ベタ」というものだと思うんです。小説を提供する側からすれば如何に読者の想像を超えるかということに命をかけていらっしゃる作家さんも多くいます。もちろんこの作品にも驚かせる部分は何度もありますが、読んだ後振り返ってみると、こと恋愛に関しては非常にベタな仕上がりになっています。でも、それが妙に心地良い。
ベタ、という言葉は少々否定的に使われることが多いような気がしますが、でもきっとみんなベタなお話は嫌いじゃないんです。身分の違う二人が恋に落ちればどうにか結ばれて欲しいと願うわけですし、本当は互いに好きなのに女の方は既に婚約者が居て、とかいう展開だったならば、最後結婚式のシーンでは男に対して「連れ去っちゃえよ!」と祈るわけです。
それらが予定調和的に行われてしまえば興醒めになってしまうのですが、そうさせないのが作者の最大の魅力だと思います。塩の街の主人公二人を取り巻く環境はかなり酷いです。交通機関はストップ、当然ガソリン等も供給できなくなる、電話もインターネットも通じない、人々は自分の命を守るために他人を傷つけることも厭わない。要するにほぼ戦時中です。そんな終わりかけの世界でも人は恋をする。だったらその恋くらい、最後にはハッピーエンドを迎えて欲しい、と思うのが読者心理ではないでしょうか。その辺、作者の有川さんは読者の心理を掴むのが非常に上手いと思います。きっとこのセンスが彼女をココまで人気作家にした一つの要因だと思います。
読者の期待を裏切るのも小説の楽しみの一つです。全く救いのない話を展開してこの世の中の無常観を伝えるのもまたその一つ。けれど、「最後に愛は勝つ!」いうのを教えてくれるのも小説の最大の楽しみの一つではないでしょうか。そういうのをお望みの方でしたら読んでみて損はないと思います。
ちなみにこの作品、本編は約半分とちょっとで終わり、残りはサイドストーリーや後日談になっています。後日談が嫌いって方もいらっしゃると聞きますが、やっぱり無事に困難を乗り越えた二人のその後の幸せな様子が見たい! って方も多いはず。もう「後日談」って響きじたいベタな匂いプンプンですが、そこも併せてお楽しみ下さい。ベタの境地、ここに極まれり!!
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- [2008/04/20 17:02]
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